東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)106号 判決
一、原告主張の請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。
二、右当事者間に争いのない事実とその成立に争いのない甲第二号証とを総合すれば、原告の本件登録商標の構成は別紙目録第一に記載されたように「KATTOMEN」のローマ字を左横書にし、その下部に「カツトメン」の片仮名を左横書に併べて記載したものであり、被告使用の「イ」号標章は別紙目録第二に記載されたもので、これをやゝ詳細に文章で表現すれば、請求原因二に記載されたとおりのものである。
三、そこで本件登録商標と「イ」号標章とが類似するかどうかについて判断するに、まず両者がその外観上類似するものでないことは明らかであり、また、その観念においても、原告は両者が類似することをあえて主張せず(原告は本件登録商標における「カツトメン」の文字は原告が本件商標の登録出願にあたり創案した新造語であり、今日においても格別の意味を有する一般用語ではないと主張する。)、ただ両者は「カツトメン」の称呼を共通する点において類似するものであることをもつぱら主張する。
原告の本件登録商標から「カツトメン」の称呼を生ずることは疑いがない。
そこで進んで「イ」号標章はこれを付した商品の取引において何と呼称されるであらうかについて判断するに、この標章を付した商品(その商品が「截断された脱脂綿」であることは当事者間に争いがない。)を購入しようとし、又はこれについて取引しようとする人が、これを「タマガワのカツトメン」と呼ぶことは、その下部に記載された「玉川衛材株式会社」の文字をまつまでもなく、右標章の中央最も見易いところに、「タマガワ」「カツト・綿」の文字がはつきり白抜きで記載されているその構成上明らかである。ただ問題は、右標章における「タマガワ」と「カツト・綿」とを分離し、原告の主張するようにこれをただ単に「カツトメン」と呼び、これを付した商品を「カツトメン」印として記憶し、取引きするであらうかどうかである。
「カツト」の語が「切る」、「切つた」を意味する英語であり、右商品を主として購入する婦人の間においても、その意味において日常使用されている言葉であることは、被告提出の数多くの証拠によるまでもなく当裁判所に顕著なところであり、「綿」が当該商品である脱脂綿を意味するものであることはいうをまたないところであるから、この両者を結合したに過ぎない「カツト・綿」は、これを使用した商品「適宜の大きさに截断された脱脂綿」そのものを指すに外ならないことは明らかである。(この場合「カツト」と「綿」との間におかれた「・」の有無は、本件標章の称呼、意味を理解する上に格別の差違を来たすものとは解されない。)
原告は審決が「カツト・綿」の文字を截断された脱脂綿の意義を有する語と解し、商品の品質ないし普通名称を表示するものとしたことを非難し、旧商標法第八条第一項を引用して、商品の品質ないし普通名称とするためには、この文字が截断された綿の品質を表示するため、又は普通名称としてその商品について普通に使用されている事実のあることを必要とすると主張するが、本件は同法条の適用の有無を問題としているのではなく、この標章によつて右指定商品を購買し、取引きする者が「カツト・綿」の文字をどう受け取るかであつて、そのためには必ずしもこの文字が普通に使用されているものであることを要するものとは解されないから、右の非難は本件にはあてはまらない。
このように二ツの言葉を結合した標章によつて、特にある商品を指称し、記憶しようとする場合、そのうち特に固有な意義を有する部分、本件の場合にあつては「タマガワ」を捨てゝ、その商品そのものを指すに過ぎない、すなわち「カツト・綿」の部分のみによることは、標章がその商品を他の同種の商品から区別するために使用されていることから考えても、到底考えられないところである。
すなわち本件標章は、これを付した前記商品の取引において、ただ単に「カツトメン」、「カツトメン」印の脱脂綿と呼ばれることなく、「タマガワのカツトメン」、少なくとも「タマガワ」印の脱脂綿と呼ばれて、他の同種の商品と区別されるものと解せられる。そしてこのことはその成立に争いのない乙第五十六号証の一、二によつて認められる原告自身本件登録商標を使用した脱脂綿の包装に、「お求めの際は『イシクラ』の『カツトメン』と御指定下さい」と記載した事実に徴しても、十分うかゞい得られるところである。
四、以上の理由により、「イ」号標章は、本件登録商標とは類似するものとはいゝ難く、前者は後者の権利の範囲に属さないものとしなければならない。
してみれば結局においてこれと同趣旨に出でた審決は、その余の点に対する判断をまつまでもなく適法であつて、これの取消しを求める原告の本訴請求は理由がない。
〔編註〕本件に関する目録は左のとおりである。
別紙目録第一
本件登録商標
<省略>
別紙目録第二
「イ」号標章
<省略>